大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成4年(ワ)7287号 判決 1992年11月18日

原告

佐川急便株式会社

(旧商号)東京佐川急便株式会社

右代表者代表取締役

栗和田榮一

右訴訟代理人弁護士

得居仁

品川政幸

被告

小倉輝美

右訴訟代理人弁護士

山下基之

主文

一  被告は、原告に対し、金一億三〇〇〇万円及びこれに対する平成二年九月一〇日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨

第二事案の概要

一本件は、原告(合併前の旧商号、東京佐川急便株式会社、以下同じ)が被告に対し、貸金の返還を求めているものである。主たる争点は、金銭消費貸借契約の成否である。

二争いのない事実

原告は、平成二年九月、被告に対して一億三〇〇〇万円を交付した。

三原告の主張

1  原告は、平成二年九月一〇日、被告に対し、返済期を定めず、かつ、利息を支払う約束をしたが利率は定めないで一億三〇〇〇万円を貸し渡した。

2  原告は、平成三年八月二九日、被告に対し右貸金の返還を催告した。

3  よって、原告は、被告に対し、右貸金及び平成二年九月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による利息(平成四年一〇月三一日まで)及び遅延損害金(同年一一月一日から支払済みまで)の支払を求める。

4  被告の主張2は否認する。

四被告の反論及び主張

1  被告は、女優兼歌手であるが、平成二年九月五月に原告の元会長佐川清(以下「佐川会長」という。)と会った際、同会長から被告の芸能活動に対して援助することを申し込まれ、当時の原告の社長渡辺広康(以下「渡辺社長」という。)に連絡しておくから是非会うようにと勧められた。

そこで、被告は、翌六日に当時の原告本店に赴いて社長室で渡辺社長に会い、赤字で困っており当面一億三〇〇〇万円が必要である旨説明したところ、同社長から、「明日現金を用意しておくから取りに来るように。」と言われたので、翌七日に再度原告本店に赴いて同社長に会ったところ、現金一億三〇〇〇万円の入った袋を渡された。その際、借用証書は作成しておらず(後日作成した事情は2で述べる。)、返済や利息の話もなかった。右金員は、原告が被告を支援するために贈与したものである。

2  仮に、右主張が認められないとしても、被告には次のとおり返済の義務がない。

被告は、平成二年九月末ころ、原告本店に赴いて渡辺社長に会った際、同社長から「税金対策のためで形だけだから。」と言われて金銭消費貸借契約証書(<書証番号略>)を示された。そのとき、渡辺社長は、被告が行う年三回のショーのチケット一枚三八〇〇円を毎回一五〇〇枚ずつ購入する旨約束してくれたので、被告は、借りた形にしてチケットを買ってもらい余裕があれば返済すればいいと考え、言われるとおりに右証書に署名した。ところが、原告は、同年一二月には約束通りチケットを購入してくれたものの、その後チケットを購入してくれなくなった。したがって、原告が右約束を履行しない以上、被告に一億三〇〇〇万円の返済義務はない。

第三争点についての判断

一争いのない事実に、<書証番号略>、証人戸館正憲の証言及び被告本人尋問の結果によると、次の事実が認められる。

1  被告は、宝塚歌劇団出身の女優兼歌手で、テレビやホテルのディナーショー等に出演し活躍しているが、平成二年九月五日に京都市内で佐川会長に会った際、同会長から経済事情について尋ねられたので、被告が主催したディナーショーの赤字で困っている、当面一億三〇〇〇万円位が必要である旨を話したところ、同会長から渡辺社長に連絡しておくから、東京に帰ったら会うようにと言われた。

2  被告は、翌六日、早速原告本店に赴いて渡辺社長に会い、一億三〇〇〇万円が必要であることを等を説明したところ、渡辺社長から、明日取りに来るようにと言われたので、翌七日に再度渡辺社長に会うと、その場で現金一億三〇〇〇万円を手渡された。

3  被告は、同月末に渡辺社長に会った際、同社長から金銭消費貸借契約証書(<書証番号略>)を示されて署名を求められたので、言われるままに署名をした。同書面には、原告が被告に対して一億三〇〇〇万円を貸し渡す旨及び利息を支払う旨の記載はあるが、利率の記載がない。

4  原告の貸付金の回収を担当した弁護士戸館正憲(以下「戸館弁護士」という。)は、備付けの貸付金台帳(<書証番号略>)等の調査によって、原告が被告に対して貸金債権を有していることが認められたので、被告に連絡を取って、平成三年八月二七日に原告本店に来てもらった。

その際、戸館弁護士は、被告に対して原告の台帳や金銭消費貸借契約証書を示して、原告から一億三〇〇〇万円を利息8.5パーセントの約束で借り受けているかどうかを確認したところ、被告は、間違いない旨答えた。そこで、双方で返済の条件について協議した結果、同年一〇月から一か月一〇〇万円ずつ返済する旨の合意が成立し、その場でその旨の確認書(<書証番号略>)を作成した。

右確認書を作成した際、被告からは、右金員は原告から贈与されたとか、あるいはショーのチケットを購入してもらう約束があったとか、さらには金銭消費貸借契約証書(<書証番号略>)は税金対策のために作成した形だけのものであるといったような話はなく、かえって被告からは、返済しないといけないと思っていた旨の話があった。

二以上の点について、被告は、一億三〇〇〇万円は原告が被告に贈与したものであり、金銭消費貸借契約証書(<書証番号略>)は渡辺社長から税金対策のためであると言われて署名したに過ぎないと主張し、被告本人尋問及び陳述書(<書証番号略>)において同様の趣旨の供述をしている。これらの供述によれば、被告が渡辺社長から一億三〇〇〇万円を受け取った経緯に照らすと、これを贈与と認定し得る余地が全くないわけではないが、しかし金銭消費貸借契約証書が作成され、貸付金台帳にもそれに沿う記載がされていること、事後処理に際して、被告が特に異論もなく確認書に署名していること等の事実に照らすと、被告の前記供述には疑問があるといわざるを得ない。

したがって、被告の主張は採用することができない。

三以上によると、原告の主張事実が認められる(ただし、貸し渡した日は平成二年九月七日、返還を催告した日は平成三年八月二七日)。

四次に、被告は、原告がチケット購入の約束を履行しない以上、被告には返済の義務はない旨主張し、被告本人尋問及び前掲陳述書においてこれに沿う趣旨の供述をしているが、前記確認書を作成した際に被告から、チケットを購入してもらう約束があった旨の話はなかったし、被告の供述に従うと金額が毎回五七〇万円、年間一七一〇万円にも及ぶ高額な約束であるのに、約束を明確に証明する書面が作成されていないこと等に照らすと、原告と被告の間に被告主張の契約が成立したものと認めるのは困難であるといわざるを得ない。

したがって、被告の主張は採用することができない。

第四結論

よって、原告の請求は理由があるから、これを認容し、主文のとおり判決する。

(裁判官大藤敏)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例